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愛してやまない

花粉の舞うよく晴れた土曜の昼下がり。

台所でコップにヨーグルトを注ぎ、

テレビをつける。

 

国民的アイドルグループの1人が卒業発表会見をしていた。

 

アイドルは目に涙を精一杯溜めて、

記者の質問に受け答えていた。

 

 

 

 

 

 

彼女が肩をたたき、

行ってくると囁く。

 

僕は何も言わず彼女の目を見て頷き、

君の背中を押した。

 

彼女はこの公演で、

初センターを獲った曲を初めて披露する。

 

このグループに彼女が加入してきてから、

いままでのことが、

すべての思い出が溢れてくる。

 

まだアイドルとスタッフの立場だった頃、

花粉症に悩まされてた僕に、

「これ飲むとよくなりますよ」

って微笑みながら飲むヨーグルトを渡してきてくれたこととか。

 

そんなことから、

色々。

 

 

 

 

彼女が歌い、踊る。

何万人も収容できる会場は彼女色のサイリウムで埋まってる。

 

初披露のその新曲は、

なにもかもが最高だった。

彼女が歌い終わった時の顔と、

観客の声とサイリウムの波が、

ほんの5分の衝撃を物語っている。

 

曲終わりに彼女のmcが入る。

 

僕はmcを聴きながら泣いていた。

 

 

 

 

mcが終わりステージが暗転し、

アイドル達が順々にはけてくる。

 

一番最後に彼女がはけてきた。

 

彼女は僕を見つけると、

精一杯溜めた涙を笑顔で一気に溢れさせ、

手をあげ、ハイタッチを求めてきた。

 

僕は彼女の手を掴み、

彼女を引き寄せ、

思いっきり抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

彼女が社長らと奥の社長室に入っていったあと、

プロデューサーと僕は通路の椅子に腰かけた。

プロデューサーからは咎めるような言葉は出なかった。

ただ「お前はどうしたいんだ」の一言だけだった。

 

「僕は...」

 

と答えに悩んでるうちに、

プロデューサーは3回足を組み替えた。

 

「好きです」

 

「それは答えじゃない

好きだからどうしたいんだ」

 

「愛してるんです」

 

「だから、好きで、愛してて、

それでお前はどうしたいんだ。」

 

うつむいてる僕の視界に、

白くて小さくて、綺麗な手のひらが差し込まれる。

 

彼女がそこに立っていた。

 

プロデューサーは続ける。

 

「お前はどうしなくちゃいけないんだ」

 

 

 

僕は彼女の手を取り、走った。

彼女はあの時のような笑顔で、

僕もそれにつられて笑いながら、

目的地もなく、ただただ走った。

 

 

 

「わかってる、

わかってるよ。」

 

彼女が言おうとしたこと、

何を思っていたか、

全部わかってた。

だから彼女が何も言わなくていいように、

僕は繰り返してた。

 

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