読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

白い光の朝に

 

ぼくとあっちゃんの冒険は、

カンカンに晴れた日のお昼寝の時間から始まった。

 

お昼寝の時間は僕にとって苦痛だったんだ。

眠くないし、眠れないし、寝たくないし、

先生は目を開けてると「早く寝なさい」と怒る。

 

起きているのがばれないように、

いつも布団の中に閉じこもっていた。

 

僕が布団に閉じこもっていると、

あっちゃんが侵入してきた。

あっちゃんは僕の隣でいつも寝ている。

 

どうやらあっちゃんも寝れないみたいで、

僕が起きているか確認しにきたらしい。

 

あっちゃんは僕が起きているのを確認すると、

「脱走しよう」

と面白そうに提案してきた。

 

僕は快諾した。

 

それから、布団という基地の中で、

僕とあっちゃんの冒険の作戦会議がはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

先生の目をかいくぐり、

保育園をうまく抜け出した。

布団の中に枕を立ててお昼寝中を演出した。

 

準備は万端だ。

 

保育園の周りは自然に囲まれていて、

川があり、林があり、山があった。

 

僕とあっちゃんはまずは山に登った。

といっても、そんなに険しい山じゃない。

 

山を登り、

ミカン畑越しに相模湾を眺める。

よく晴れてる日の相模湾は、

大きなダイアモンドのように、

煌びやかに太陽を反射させている。

 

熟れている甘そうなみかんをもぎり、

あっちゃんはそれを半分に割って、

片方を僕に差し出した。

 

みかんを食べながら、

また相模湾を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

川沿いを伝いながら、

保育園に戻った。

 

僕とあっちゃんはばれていないと思っていたが、

ばれていた。

そして予想外に大騒動になっていた。

 

当たり前だ。

保育園から園児が二人いなくなっているのだから。

 

僕のおばあちゃんと同じくらいの年の園長先生も、

大好きな若い先生も、

みんな慌てふためいていた。

 

僕とあっちゃんが何食わぬ顔で保育園の校門を越えて園に入った瞬間、

僕とあっちゃんのクラスの担任をしてる30代の女の先生が僕たちをみつけ、

大きな声で僕とあっちゃんの名前を叫んだ。

 

それから色んな人に怒られた。

当時の僕はなんでみんな怒ってるんだろうって思ってた。

罪の意識がまるでなかった。

 

僕とあっちゃんと担任の先生の三人きりになった時、

先生は僕とあっちゃんの頭に拳骨を見舞った。

そして僕とあっちゃんを同時に抱きしめた。

 

泣きながら抱きしめられてるときに、

はじめて、なんだか悪いことをしてしまったんだなって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を刺すような眩しさで目が覚める。

お母さんが障子を開けて、洗濯物を干している。

僕はしばらくぼーっとしていた。

お母さんが洗濯物を干し終わり、障子を閉めた。

太陽の光が障子で濾される。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの頃の僕は、遠い未来のことなんてまるで考えてなくて、

ただその日一日をいかに楽しめるかだけを考えていた。

 

そんな日々を思い出す。

あの日と同じ、白い光の朝に。

youtu.be

愛してやまない

花粉の舞うよく晴れた土曜の昼下がり。

台所でコップにヨーグルトを注ぎ、

テレビをつける。

 

国民的アイドルグループの1人が卒業発表会見をしていた。

 

アイドルは目に涙を精一杯溜めて、

記者の質問に受け答えていた。

 

 

 

 

 

 

彼女が肩をたたき、

行ってくると囁く。

 

僕は何も言わず彼女の目を見て頷き、

君の背中を押した。

 

彼女はこの公演で、

初センターを獲った曲を初めて披露する。

 

このグループに彼女が加入してきてから、

いままでのことが、

すべての思い出が溢れてくる。

 

まだアイドルとスタッフの立場だった頃、

花粉症に悩まされてた僕に、

「これ飲むとよくなりますよ」

って微笑みながら飲むヨーグルトを渡してきてくれたこととか。

 

そんなことから、

色々。

 

 

 

 

彼女が歌い、踊る。

何万人も収容できる会場は彼女色のサイリウムで埋まってる。

 

初披露のその新曲は、

なにもかもが最高だった。

彼女が歌い終わった時の顔と、

観客の声とサイリウムの波が、

ほんの5分の衝撃を物語っている。

 

曲終わりに彼女のmcが入る。

 

僕はmcを聴きながら泣いていた。

 

 

 

 

mcが終わりステージが暗転し、

アイドル達が順々にはけてくる。

 

一番最後に彼女がはけてきた。

 

彼女は僕を見つけると、

精一杯溜めた涙を笑顔で一気に溢れさせ、

手をあげ、ハイタッチを求めてきた。

 

僕は彼女の手を掴み、

彼女を引き寄せ、

思いっきり抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

彼女が社長らと奥の社長室に入っていったあと、

プロデューサーと僕は通路の椅子に腰かけた。

プロデューサーからは咎めるような言葉は出なかった。

ただ「お前はどうしたいんだ」の一言だけだった。

 

「僕は...」

 

と答えに悩んでるうちに、

プロデューサーは3回足を組み替えた。

 

「好きです」

 

「それは答えじゃない

好きだからどうしたいんだ」

 

「愛してるんです」

 

「だから、好きで、愛してて、

それでお前はどうしたいんだ。」

 

うつむいてる僕の視界に、

白くて小さくて、綺麗な手のひらが差し込まれる。

 

彼女がそこに立っていた。

 

プロデューサーは続ける。

 

「お前はどうしなくちゃいけないんだ」

 

 

 

僕は彼女の手を取り、走った。

彼女はあの時のような笑顔で、

僕もそれにつられて笑いながら、

目的地もなく、ただただ走った。

 

 

 

「わかってる、

わかってるよ。」

 

彼女が言おうとしたこと、

何を思っていたか、

全部わかってた。

だから彼女が何も言わなくていいように、

僕は繰り返してた。

 

youtu.be

ナイトランデブー

5分早いシフトタイマーが23:00を表示する。

僕と君はみんなに挨拶をしてバイトをあがる。

 

スタッフルームで交互に着替える。

だいたい僕が先に着替えて、

その次に君が着替える。

僕は店の外の待合席で君の着替えを待つ。

君が店のドアを開けて僕の肩をたたく。

 

「いこ」

 

23:00にあがってから、

最初に交わした言葉。

 

 

 

 

電車までの時間をつぶす。

適当に駅の周りをぶらぶら歩く。

コンビニに入って、

君はファッション雑誌、

僕は音楽雑誌を読む。

 

 

二人で温かい飲み物を買ってコンビニをでる。

 

 

終電の一本前の電車が行ってしまったことを、

コンビニを出て気づく。

終電までまた適当に時間をつぶす。

 

近くに公園があるので、

そこのベンチで休むことにする。

 

何をきっかけにかは覚えてないけど、

話が盛り上がってお腹を抱えて笑う。

 

「幸せだね」

 

僕がお腹を抱えてると君は笑いながら言った。

 

 

 

 

笑い終わって終電が行ってしまったことに気づく。

どうしようかって君に問いかける。

 

「なんとかなるよ」

 

って君は答え立ち上がる。

 

 

 

 

二人はいつも何も決めずに歩いて、

夜はいつも二人を乗せてく。

 

二人はいつも、

何も起きない夜を歩く。

youtu.be

ミッドナイトサイダー

深夜のホテル街のコンビニに車を停め、

ホテルでデリバリーを楽しむ男友達二人の帰りを待つ。

 

コンビニの前で煙草を吸っていると、

目の前に割増と表示されたタクシーが停まる。

 

後部座席から70代くらいの白髪のじじいが降りてくる。

じじいはコンビニに入っていった。

 

タクシーの後部座席にはおなじく70代くらいの奥さんが乗っている。

 

ああ、

この老夫婦は二人でどこかへデートに行った帰りなのだろう。

いいよなこの年でも仲睦まじくて。

 

なんてことを考えながら白い煙を吐き出す。

 

やがてコンビニからホットのお茶と軽食をレジ袋に入れたじじいが出てきた。

 

優しいじじいだな。

 

なんて、タクシーのテールランプに目をやられながら考えていると、

そのタクシーはラブホに入っていった。

 

 

 

 

僕はいてもたってもいられなくて、

近くの牛丼屋さんに入った。

 

別にお腹が空いてるわけじゃない。

 

チーズ豚丼のミニを頼んで、

店内のラジオに聴き入る。

 

 

 

「僕は彼女を呼び出して、受験に成功したら付き合ってほしいと彼女に告げました。

すると彼女は了承してくれました。

しかし受験に失敗していまい、僕が落ち込んでいると、

彼女の方から告白されました。

この曲を聴くとそんな当時の記憶と、彼女の愛しさを思い出します。」

というリクエストをdjが読み上げ、

ワンオクロックのwherever you areが流れる。

 

僕は届いたチーズ豚丼を急いでかっ喰らい、

曲が終わる前に急いで店を出た。

 

 

 

行くあてもないので、

コンビニに戻る。

 

再び煙草に火を点ける。

 

ふとホテル街の路地に目をやると、

手を繋いだ若いカップルがでてきた。

 

カップルの女の方をよくみる。

 

どこか見覚えのある顔だ。

 

はっとした。

 

前の職場でみんなのアイドル的存在のjkだった。

 

僕は不自然なほど腕や手を使って自分の顔がばれないように逃げた。

 

 

 

ホテルの駐車場に戻り、

車の中で男たちの帰りを待つ。

 

スマホにイヤホンを挿し、

目を瞑り音楽に入り浸る。

 

二月の寒い夜。

自販機で買ったサイダーを添えて。

 

youtu.be